第107章

瑚夏はまぶたすら上げなかった。

「……あんたに関係ある?」

エレベーターの中にはほかの人もいた。

瑚夏はわざと声を落としたわけじゃない。何人かがこの隅へちらりと視線を向け、柏木航平は体裁を気にしたのか、黙って少し横へずれた。

5階に着くころには、残っていたのは瑚夏と柏木航平だけ。

柏木航平は遠慮が消えたように、真正面から瑚夏の前に立つ。

そして、瑚夏が提げている袋へ視線を滑らせ、軽薄に口元を歪めた。

「渡辺瑚夏。いちおう、お前は俺の元・婚約者だったんだぞ。それが今じゃ配達? 落ちぶれたもんだな。悔しくないのか?」

まるで「自分の婚約者になること」が、どれほど名誉だったかと言い...

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