第91章

渡辺明山と小林美子は、誰かが渡辺直樹の名を口にしたのを聞いて、同時に振り向いた。

少し後ろ――エレベーターホールから、瑚夏が結城紗耶の腕にすがるようにして出てくる。

二人は驚くほど親しげで、瑚夏は甘えるような声で結城紗耶の問いに答えた。

「直樹は前と同じ病室だよ。あとで、私が一緒に行くね」

小林美子の視線は、その瞬間、結城紗耶に吸い寄せられた。

呆けたように、二人が遠ざかっていく背を見送る。やがて彼女たちは病室へ入っていった。

結城紗耶の纏う空気。端正なセットアップ。手元の限定のエルメスのバッグ。

どれもこれも眩しくて、目が痛いほどだった。

「……今の、聞き間違い? あの気品...

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