第248章 大型の修羅場

彼に声をかけるべきか、彩が迷っていた、そのフェーズでのことだ。

不意に、カツン、カツンと、ヒールの小気味よい音が響いてきた。

続いて、雲瀬絢子の弾むような、驚きと喜びに満ちた声が鼓膜を打つ。

「水瀬さん、いらしてたんですね」

その瞬間、早鐘を打っていた神崎彩の心臓は、鎮静剤を打ち込まれたかのように静まり返った。

恐ろしいほどの凪(なぎ)が訪れる。

もう、迷う必要はなくなった。

勤務時間中でもなし、彼は彼のデート、私は私の食事。赤の他人のふりをすればいいだけのことだ。

水瀬遥人は、身じろぎもしない彩の背中をじっと見つめていたが、やがて視線を雲瀬絢子へと移した。

お見合いの時に...

ログインして続きを読む