第334章 愛の力

水瀬遥人は彼女と対照的に、ずいぶんとリラックスした様子だった。

片手で彼女の腰を支え、倒れないようにしっかりと抱き留めている。

もう片方の手は、彼女の目尻を優しく撫でていた。

彼は彼女を見下ろして言った。

「少し休憩室で休んでいけ」

「行かない」

彼女は一切の躊躇なく拒絶した。

彼の休憩室に行くなんて、どういうつもりなのだろうか。

彼女は彼を突き飛ばすようにして駆け出した。まるで、一秒でも遅れれば逃げられなくなるとでも言うように。

ところが、後ろめたさからか何なのか、ハイヒールが滑り、ぐらりと足首を捻ってしまった。

ちょうど通りかかった近藤七海が、すかさず彼女を支えた。

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