第544章 温小緑

神崎彩は箸を持つ手に、きゅっと力を込めた。

水瀬家のほかの面々も、程度の差こそあれ胸の内がざわついている。

紙は火を包めない。広住素子が、神崎彩の本当の身分を知る日はいずれ来る。

片や、彼女が心から好いている命の恩人。

片や、彼女がどうにも気に食わない神崎彩。

まさに天国と地獄。

一瞬で個室の空気が、どこか奇妙にねじれた。

水瀬遥人がくすりと笑う。

「母さんさ。わざわざこっちに呼び込んだうえに、あれこれ話して……そのあと根掘り葉掘りって。そりゃ怖がるだろ」

広住素子はむっとする。

「名前を聞いただけよ。さっき、この子だって言おうとしてたじゃない」

「それ、礼儀だよ」

...

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