第565章

夜はもう、とっくに更けていた。

神崎彩はしばらく横になってみたものの、どうしても眠れない。そっと布団をめくり、音を立てないようにベッドを降りた。

灯りは点けない。窓の隙間から差し込む月明かりだけを頼りに、裸足のまま大きな窓の前へ歩いていく。

眼下に広がるのは、水瀬遥人の庭園だった。名前も知らない花がいくつか植えられていて、月光の下、影がゆらり、ゆらりと揺れている。

彩は窓の外を見つめたまま、長いこと動けなかった。けれど思考だけは、月明かりよりも遠くへ漂っていく。

七年前――西園寺蓮に嫁いだ日のことを、思い出してしまったのだ。

式はなかった。指輪もなかった。まともな約束の言葉ひとつ...

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