第574章

政略結婚の披露宴を明日に控えたその日――不意の来客が、神崎家の門を叩いた。

神崎彩が書斎で書類に目を通していると、高杉進介が入ってきて報告する。

「神崎さん、外にお客様が。お会いしたいと……お名前は柚月徹さんだそうです」

彩のペン先が、ぴたりと止まった。

柚月徹。

その名に聞き覚えがないはずがない。

柚月家の同世代で最も優秀だと噂される後継者候補。そして――彼女が一度も顔を合わせたことのない、従兄。

「通して」

数分後。

背の高い男が、書斎へ足を踏み入れた。

黒いスーツに身を包み、彫りの深い冷たい顔立ち。鋭い眼差し。どこか、彩と似ている。

彩を見た瞬間、男の瞳がわずかに...

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