第576章

政略結婚の披露宴、その前夜。

神崎彩と水瀬遥人は書斎に並んで座り、二時間かけて明日の「想定問答」を洗い出していた。

「淵本直纪の狙いなんて単純よ。あの場で私に恥をかかせたいだけ」

ソファの背にもたれた彩は、無意識に肘掛けを指先でトントンと叩く。

「出自をネタにしてくるかもしれない。私の弱みを、みんなの前で暴こうとするかもしれない。……それに、わざと私と柚月美月を並べて比べさせて、逃げ場をなくすつもりかも」

「ほかには?」

隣の遥人が、真剣な顔で耳を傾ける。

「水瀬お婆さんの口を使って、私に踏み絵を踏ませる可能性もある」

彩の目が、すっと冷えた。

「たとえば、温家と唐家の縁談...

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