第580章

政略結婚の披露宴が失敗に終わったことで、淵本直紀はようやく完全に冷静になった。

書斎の椅子に腰を下ろし、目の前にはすっかり冷めきった茶。視線は陰り、獣のように鋭い。

表から押して駄目なら、裏から崩す。

もう自分の手で動くわけにはいかなかった。

教会で一度、披露宴で二度。彼女はすでに二回負けている。

三度目を落とせば、今度こそ二度と立ち上がれない。

だから――今回は、他人の刃を使う。

淵本直紀はスマホを取り上げ、柚月匡志へ発信した。

「匡志、神崎彩が柚月家に戻るって話、知ってるわよね」

受話器の向こう、柚月匡志の声は低く沈んでいた。

「知ってる」

「怖くないの? あの子が...

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