第35章 いいじゃない

翌朝。江口式はまだ薄暗い六時に目を覚ました。階下へ降りると、夏川媛はすでにキッチンに立ち、彼女の好きなケーキの材料を手際よく揃えているところだった。

江口式に気づくなり、夏川媛が言う。

「どうしてもっと寝ていないの?」

「手伝うね」

江口式はエプロンを身につけ、その輪に入った。

「使用人がいるんだから、あなたはいいの」

江口式はふっと笑うだけで、返事はしなかった。

この家には使用人がいる。夏川媛がわざわざ手を動かす必要なんて、本当はない。

それでも夏川媛がこうして作るのは、江口式への気持ちの表れだ。だから江口式も、手を貸したかった。

――最後の、いっしょの時間だと思えばなお...

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