第66章 違い

長い廊下を、林田景司が黒いスーツ姿で歩いてくる。背はすらりと高く、近寄るだけで空気が引き締まるような圧があった。江口式は遠目のうちから、彼の存在に気づいてしまう。

青いネクタイが視界に入った瞬間、思う。

離婚の手続きは、先延ばしにするほど面倒になる。

だから、距離が詰まったところで江口式は口を開いた。

「林田社長」

外では、この呼び方がいちばん無難だ。妙な勘繰りをされるのは避けたい。

「時間を――」

「無理だ」

林田景司は江口式を一瞥しただけで足を止めず、そのまま彼女の横をすり抜けていった。

江口式は一瞬、言葉を失って振り返る。

ちょうどその先で、トイレから出てきた武井鳴...

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