第79章 元夫だったのか

「私が……演技してるって?」

江口式はふっと目を上げた。信じられない、という色と、濃い失望が瞳に滲む。

「林田景司。私が仮病だって言いたいの?」

医師も看護師も、思わず林田景司へ冷ややかな視線を向けた。

患者は39度まで熱が上がっている。こんな言い方があるか――そんな顔だ。

林田景司の喉仏が小さく動く。彼は顔を背け、黒い瞳を細めた。

「仮病じゃないなら、医師の指示に従え。入院しろ。……君の祖父のほうは俺がいる。君は仕事で来られなかったって伝えておく」

燃え上がっていた怒りに、冷水を浴びせられたみたいだった。

江口式は呆然と彼を見つめる。言葉の意味が、すぐには飲み込めない。

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