第82章 知っているが、親しくない

江口式は電話をしていた。声はひどく小さい。

武井鳴が耳を澄ますと、どうやら仕事の話らしい。相手が何かで行き詰まっていて、江口式が技術的な助言をしているようだった。

武井鳴は少しばかり顔が熱くなる。

――自分が考えすぎていただけか。江口式は、ただ仕事の電話を受けに外へ出ただけ。

その場で二秒ほど迷ってから、武井鳴はトイレへ向かった。

戻ってくると、ちょうど江口式も通話を終えたところで、廊下で鉢合わせる。

武井鳴は何でもないふうを装って尋ねた。

「何かトラブルでも?」

「大丈夫。もう片づきました」

江口式は静かに返す。自信があって、落ち着いている。

その顔にふっと笑みが浮かび...

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