第86章 秋実、謝れ

肩を押され、江口式はよろめいて数歩下がり、そのまま車体にぶつかった。

顔を上げると、林田景司が林田秋実の左手首を押さえ込んでいる。だが、秋実の右手はまだ自由だった。

狙いは式の顔だったのだろう。けれど景司のほうが背が高い。伸びた爪は、式ではなく景司の首元をかすめた。

じわり、と。

首筋に二本の血筋が滲む。

遅れて駆けてきた夏川媛が、その光景に息を呑んだ。驚きと怒りが一気に顔に出る。

景司の傷が浅いと見るや、媛は先に式へ駆け寄った。支えながら頬を覗き込み、赤く浮いた跡を見つけて、深く息を吐く。

「兄さん! なんであんな女を庇うの! あいつが寧音姉さんのプロジェクトを奪って、私のこ...

ログインして続きを読む