第92章 彼女はスパイなの

坂東紫苑はとにかく話がうまい。江口式もすっかり気に入ってしまい、夕食は気づけば夜更けまで続いた。

帰り際、坂東逸世が「送るよ」と言ってくれたが、江口式は自分で運転してきていたため、丁重に断った。

時刻はまもなく23時。

玄関のドアを開け、スリッパに履き替えたところで、林田景司から電話が入る。

「一度会おう。協議書でおまえに渡すことになってる資産、名義を移してやる」

離婚協議書にある、彼女の取り分の物件。まだ名義変更の手続きは済んでいない。

江口式は少し考えた。名義変更は、どうしても半日以上は潰れる。

この数日、仕事の進行を遅らせてしまっている。急ぎでもない用事で、さらに時間を削...

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