第106章

香椎早希は相変わらず松井誠美の手を握ったまま――出来のいい嫁がそうするように。

けれどもう片方の手は、コートのポケットの中でそっとスマホの録音ボタンを押していた。

「落ち着いて。ゆっくりでいいから」

その一言で堪えきれなくなったのか、松井誠美の涙が、ぽろりと落ちた。

彼女は早希の手首を、骨が軋むほど強く掴む。

「分かってる……私、ずっとあなたにひどいことをしてきた」

声は途切れ途切れだった。

「あなたが雲雀家に嫁いできた時から、気に入らなかったの」

「何もかも出来て、気が利いて……なのに、どうしても癪に障って」

香椎早希の睫毛が、わずかに震えた。

松井誠美が自分に向け...

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