第186章

香椎早希は俯いたまま、視界の端で雲雀京介が何か考え込んでいるのを捉えた。唇の端が、ほんのわずかに持ち上がる。

彼はその場に立ち尽くしている。器の外側に結んだ水滴が指の間をつたって、ぽたり、ぽたりと天板に落ちた。かすかな音が、やけに耳に残る。

雲雀京介の脳裏に、竹内結菜が「妊娠した」と告げてきたあの日の光景が、不意に蘇った。

「……どうしたの?」

香椎早希は、彼の沈黙が長いことに気づくと顔を上げた。視線を彼の顔に落とし、疑問と気遣いを、ちょうどいい分量だけ滲ませる。

「いや、なんでもない」

問いかけに引き戻され、雲雀京介は我に返った。喉仏が一度、上下に動く。口元に笑みを貼りつけた。...

ログインして続きを読む