第44章

香椎早希は、床に膝をついた女を見下ろした。自分とどこか似た輪郭のその顔には、臆病さと諦めがべったり貼りついている。

「帰って、あの人に伝えて」

香椎早希の言葉は、歯の隙間から絞り出したみたいに硬かった。

「私は戻らない。あの家なんて、もうとっくに捨てた」

母親の信じられないという眼差しに、冷たく言い足した。

「もし、まだ私を娘だと思うなら。もし本当に私のためを思うなら……二度と、私の前に現れないで」

それだけ言うと、香椎のお母さんを二度と振り返らず、踵を返した。

胃の奥がぐらりとひっくり返る。吐き気が喉元まで駆け上がってきた。

香椎早希は最寄りのトイレへ駆け込み、洗面台に両手...

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