第68章

一曲が終わると、八神煉は彼女の腰に回していた手をすっと離した。どこまでも紳士的な所作。

香椎早希の口元に残る笑みが消えきらないうちに、雲雀京介が青筋を立てた顔で歩み寄ってきた。

視線は刃物みたいに八神煉を削り、そのまま香椎早希の手首を乱暴に掴む。

「帰るぞ」

歯の隙間から絞り出す声。押し殺した怒りが滲んでいた。

手首がきりりと痛む。それでも早希は、相変わらず穏やかな微笑を崩さない。

「あなた、レセプションはまだ終わっていませんよ」

わざと柔らかくした語尾と、「あなた」という呼びかけが、雲雀京介の理性をかろうじて引き戻した。

――ここは公の場だ。無数の視線がこちらを見ている。

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