第75章

トイレのドアが、内側から開いた。

八神煉はドア枠にもたれかかり、シャツの襟元はだらしなく開いたまま。頬には不自然な赤みが浮いている。

香椎早希の姿を捉えた瞬間、糸が切れたみたいに――その身体が前へ崩れた。

「っ……!」

押し潰されるように受け止めた早希は、よろけて二歩。肩が壁にぶつかり、短く息を漏らす。

長い付き合いだ。こんなふうに弱ったこいつを見るのは、初めてだった。

……少しだけ。

「八神煉。もうちょっと生きる気、出せない?」

煉は彼女の肩口に額を落とし、熱く重い息を吐く。声は掠れて、言葉になりきらない。

「……来るの、遅い」

早希は歯を食いしばって身体を起こし、肩を...

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