第81章

香椎早希はリビングに立ったまま、その言葉を聞き終えても腹を立てるどころか、ふっと笑ってみせた。

――この手の台詞は、もう聞き飽きるほど聞いた。相手が次に何を考え、どんな顔で言い切るかまで、暗唱できるくらいに。

「おっしゃる通りです」

松井誠美が、きょとんと目を瞬かせる。そんな返しが来るとは思っていなかったのだろう。

早希は一歩、前へ。声は大きくない。それでも一語一語が、氷みたいに澄んでいた。

「でも少なくとも――私の子どもの父親は、よその旦那さんにはなりません」

リビングが、振り子時計の音まで聞こえるほど静まり返った。

次の瞬間、松井誠美の手からリモコンが落ち、ぱんっと乾いた音...

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