第93章

その言葉が落ちた瞬間、松井誠美は信じられないものを見るように息子を見つめた。雲雀京介が迷いなく香椎早希を背に庇う。その姿はまるで、無理を言って家庭を壊そうとしているのが自分のほうだと告げているみたいだった。

「……いいわ。いいわよ……」

松井誠美は怒りで全身を震わせ、雲雀京介を指さしたまま、言葉が喉の奥で絡みつく。

「雲雀京介……その女のために、母親まで捨てる気なの!」

雲雀京介はもう言い合う気もないらしい。深く息を吸い、香椎早希の手首を掴む。

「早希、行くぞ」

「……うん」

香椎早希は素直に従った。背を向ける、その一瞬。

一見、無垢に見える瞳が、怒りで顔を歪めた松井誠美をさ...

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