第96章

「竹内海、もしこのこと……香椎早希に勘づかれたら……」

竹内海はそっと松井誠美の手を握り返し、親指で甲を行ったり来たり撫でた。声はやわらかいのに、妙に揺るがない。

「怖がるな。もう全部考えてある」

松井誠美は顔を上げる。目の縁が赤い。

竹内海はしゃがみ込み、目線を合わせた。深い眼差しに、綻びは一つもない。

「外には『気分転換に海外へ行きたい』って言えばいい。俺が付き添う。向こうで落ち着いて身体を整えて、子どもを産む。それから次を考えればいい」

「でも……」

その案に、松井誠美ははっきり迷いを見せた。

もともと旅行好きでもない自分が、急に海外だなんて言い出せば、疑われるに決まっ...

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