第2章 四大学部
早朝の中央広場は、霧に包まれていた。
「予言者の皆さん、ようこそ魔法学園へ!」
制服を着こなした上級生のエミリが、誇らしげな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。彼女は広場の中央で七色の光を放つ巨大な魔法石碑を指し示す。
「これは四元素魔法石碑。それぞれ四大学部を指し示しています。今日は私が、各学部の特色、そして……これから皇位を争うことになる天才たちについて、詳しくご案内しますね」
明智冬音は明智秋子の服の袖をぎゅっと掴み、不安そうな声を出した。
「秋子姉さん、その人たち、怖いのかな?」
秋子は彼女の手を軽く叩く。
「大丈夫、私がいるから」
エミリは目に崇拝の光を宿した。
「四人の学部長は、いずれも千年に一人の天才です! 光明学部長のエドモンド殿下はまだ十八歳、竜騎学部長のレナード様は十九歳、闇学部長のカール殿下は二十歳、そして召喚学部長のセレス様は二十二歳です」
「そんなに若くして皇位を争うの?」
秋子は眉をひそめた。
「若いからこそ、より多くの可能性を秘めているのです!」
エミリは興奮したように言った。
「神に選ばれた予言者である皆さんは、最も尊い賓客として迎えられます。彼らも皆さんとお会いするのを楽しみにしていますよ!」
明智千夏物思いに耽る。
「面白い……この若さでこれほどの成果を。彼らの寿命はきっと……」
言葉の途中で、彼女はふと口を閉ざし、顔色をわずかに変えた。
「どうしたの?」
明智春香が鋭く異変を察知する。
「なんでもない……」
千夏は首を振ったが、その目には憂いが隠されていた。
最初の目的地は光明学部だった。
純白の神殿が陽光を浴びてきらきらと輝き、一本一本の柱には複雑なルーンが刻まれている。空気中には温かく神聖な気配が満ちており、心を晴れやかにさせた。
「きれい……」
冬音は思わず感嘆の声を漏らした。
中央庭園の円形訓練場では、学生の一団が光明魔法の訓練を行っていた。彼らを指導しているのは、物腰の柔らかい金髪の青年だ。純白の学部長制服を身にまとい、腰には聖剣を佩いている。
「あの方がエドモンド殿下です」
エミリが小声で紹介した。
秋子は、噂に聞く聖子を注意深く観察する。彼の所作は優雅で品があり、後輩たちへの指導は根気強く丁寧だ。時折見せる笑みは春風のように温かい。
だが、優しすぎるのは、権力闘争においてはかえって危険だ……。
「ようこそ、神に選ばれし予言者の皆さん!」
エドモンドは彼女たちの来訪に気づき、穏やかに歩み寄って一礼した。
「光が我らを正しき道へ導きますように。私は、正義と善良の力がこの帝国を救えると信じています」
春香は密かに善悪感知を発動させた。しばらくして、彼女は秋子に小声で告げる。
「彼は確かに心の底から善良な人よ。でも……」
「でも、何?」
春香の表情は複雑だった。
「こんな人が、本当に皇位争奪に向いているのかしら?」
次は召喚学部の星象観測室だった。
優雅な塔の内部は、まるで知識の海のようだ。無数の魔法書が宙を漂い、回転し、巨大な星象儀がゆっくりと動いている。古代の予言書を読んでいたセレスが顔を上げ、金縁の眼鏡を押し上げた。
「知識は帝国にとって最も貴重な財産です。中でも予言魔法は古の知恵の結晶。予言者の皆さんと、多くを語り合えることを願っています」
彼の声は穏やかで、人を惹きつける力があった。
千夏の目に称賛の色が浮かぶ。
「セレス先輩の学識は確かに深いわ。それに、彼の寿命は……」
彼女はまたしてもふと口を噤み、顔つきが微妙に変わった。
「彼の寿命がどうしたの?」
秋子が問い詰める。
「視ることができない」
千夏は思案顔で言った。
セレスは彼女たちの会話が聞こえたかのように、意味深な笑みを浮かべた。
「寿命の長短は、時に魔法の力ではなく……他の要因によって決まるものですよ」
三番目に訪れたのは、最も忌み嫌われている闇学部だった。
ゴシック様式の黒い建物群はまるで魔王の城のようで、そびえ立つ尖塔が天を突いている。足を踏み入れた瞬間、強烈な圧迫感が押し寄せ、春香と千夏は思わず半歩後ずさった。
「なんて禍々しい気配なの……」
冬音は秋子の後ろに隠れて震えている。
ただ秋子だけが、異様なほど落ち着いていた。
地下の魔法実験室は、さらに不気味で恐ろしい。青い魔の炎が揺らめき、空気中には様々な薬品の匂いが混じり合っている。実験台の前では、銀色の長髪を持つ青年が複雑な闇系統の魔法実験を行っていた。人の気配を感じ、カールがゆっくりと振り返る。
深淵のように深い紫色の瞳、月のように青白い肌、そしてまるで地獄から来たかのような気配――これこそが噂の魅影の王子。
「闇魔法は、世間で誤解されているような邪悪なものではない」
彼の声は低く、磁性を帯びていた。
「生と死の奥義を探求する至高の真理だ。死を直視してこそ、真に生を理解できる」
冬音は怖がって秋子の後ろにさらに縮こまる。
「秋子姉さん、早く行きましょうよ……」
しかし秋子は、平然と言った。
「この気配……覚えがある」
春香と千夏は、驚いて秋子を見た。自分たちの知る秋子が、いつから闇魔法に興味を持つようになったというのだろう?
カールは秋子をじっと観察する。
「面白い……君には闇系統の魔法の素質があるようだ……」
「おそらく、私の能力そのものが死と関わっているからでしょう」
秋子は彼の視線を受け止め、一歩も引かなかった。
「死は、確かにこの世で最も深遠な魔法だ」
カールは意味深に言った。
「三日後の契約の儀が楽しみだよ」
最後の目的地は、断崖絶壁に建てられた竜騎学部だった。
壮観な城の訓練場の上空では、色とりどりの巨竜が雲海を旋回し、雄大な竜の咆哮が天に響き渡っていた。
「わあ! 本当にドラゴンがいる!」
冬音は興奮で目を輝かせた。
訓練場の中央では、大柄な金髪の青年が、威風堂々とした巨竜を駆って高難度の飛行訓練を行っている。彼の動きは伸びやかで自由自在、巨竜との連携は完璧で、まるで伝説の竜騎士のようだ。
「かっこいい……伝説の英雄様みたい!」
冬音はうっとりと見つめ、頬をリンゴのように赤く染めた。
秋子もまた、深く心を揺さぶられていた。レナードが放つ太陽のような魅力は、確かに致命的な引力を持っている。
その時、突如としてアクシデントが起こった!
一頭の巨竜の体内で魔法の力が暴走し、危険な乱気流が発生したのだ。
秋子の死の予知が瞬時に発動し、血のように赤い死の光景が閃いた――レナードが乱気流に飲み込まれ、高空から墜落死する!
「危ない!」
秋子は躊躇なく大声で警告した。
レナードはその叫び声を聞き、瞬時に反応すると、金竜を操って致命的な気流の渦をすんでのところで回避した。
無事に危険を避けた後、彼はすぐに訓練場へと降り立ち、その端正な顔には感謝の色が満ちていた。
「どうして危険に気づいたんだ? 俺はなんの異常も感じなかったのに」
「直感……私には死の気配が感じられるんです」
秋子は静かに言った。
「先ほど乱気流に巻き込まれていたら、ただでは済みませんでした」
レナードの目に称賛の色が宿る。
「不思議な力だな。俺はレナードだ。君に会えて嬉しい」
胸がときめくというのは、こういう感覚なのだろうか。
この太陽のような笑顔は……なぜこれほどまでに忘れがたいのだろう。
「四人の予言者の方々は、皆さん素晴らしいですね」
レナードは四人に向けて礼儀正しく言った。
「三日後の契約の儀で、皆さんと縁があることを願っています」
冬音は嫉妬深げに呟いた。
「秋子姉さんばっかり、いつもすごいんだから……」
だが彼女をさらに嫉妬させたのは、レナードが秋子に向ける、あの特別な眼差しだった。
見学を終え、貴賓宿舎に戻る。
秋子は一人でバルコニーに立ち、脳裏に四人の候補者の姿を繰り返し思い浮かべていた――エドモンドの優しさ、セレスの叡智、カールの深遠さ、そしてレナードの太陽のように眩しい笑顔。
だがその直後、死の予知で見た血生臭い光景が、潮のように押し寄せてきた。
エドモンドが光明神社の祭壇に倒れ、胸には一本の暗影の剣が突き刺さり、金色の血が純白の石段を染め上げていた……。
セレスが燃え盛る図書館の中で微笑みながら死に、無数の貴重な古書が灰燼に帰していた……。
カールが自らの闇魔法に呑まれ、虚無へと消えていった……。
そしてレナードも……あの太陽のような少年も、最終的に死の運命から逃れることはできなかった……。
「秋子姉さん?」
冬音がそばに来て、心配そうに彼女を見つめる。
秋子は振り返り、この無垢な顔を見つめた。予言では、目の前のこの最もか弱い冬音が、最終的に皇后となる……。
そして自分自身は、冬音をその手で殺める処刑人となるのだ。
「契約の儀が怖いよ……私、何の能力もないのに、どうやって選べばいいの?」
冬音の瞳は、頼りきった色をしていた。
秋子は深く息を吸い、手を伸ばして冬音の髪を優しく撫でた。
「大丈夫。私が冬音を守るから」
「ほんと? 誰を選べばいいか、教えてくれる?」
「もちろん……冬音に一番良い助言をしてあげる」











