予言の果て、大事な妹を殺す

予言の果て、大事な妹を殺す

渡り雨 · 完結 · 45.3k 文字

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紹介

戦火のさなか、私と三人の姉妹弟子は異世界に召喚され、それぞれが特別な能力に目覚めた。――ただ一人、末の妹弟子である冬音を除いて。

そんな中、私の【未来を予言】の能力が、信じがたい未来を映し出す。
それは、私がこの手で、無力でか弱いはずの冬音を殺める未来だった。

なぜ? どうして私が冬音を?
疑問を抱える私の前で、冬音は日に日に不可解な言動を見せるようになっていく。
そして、あの絶望的な未来が、刻一刻と現実へと近づいてくるのだった。

チャプター 1

 刺眼い銀光が闇を引き裂いた。

 明智秋子ははっと目を開く。目に飛び込んできたのは、見たこともない光景だった――頭上には透明な水晶のドーム、空には二つの月が浮かび、足元には複雑な銀色の魔法陣が広がり、周囲には淡い青色の水晶柱が林立している。

「ここは……どこ?」

 無意識に身を起こそうとしたが、自分の声が妙に澄んでいることに気づく。見下ろせば、成熟していたはずの身体は十六、七歳の少女の姿に変わり、魔法学園の制服らしきものを着ていた。

 何かおかしい!

「春香姉さん? 千夏姉さん? 冬音?」秋子は焦ってあたりを見回す。すると、同じ制服を着た三人の少女が、魔法陣の別の場所に横たわっているのが見えた。

 二番目に目覚めたのは明智春香だった。彼女は身を起こした瞬間、その眼差しが刃のように鋭くなる。

「感じる……なんて強い善悪の波動! 前世より百倍もはっきりしてる! 一人一人の心の品格まで見通せるわ!」春香は驚愕の表情で自分の両手を見つめた。

 続いて、明智千夏もゆっくりと覚醒し、その瞳に一筋の金光が走る。

「時間……時間の流れが見える。寿命の終わりも……この感覚……」

 千夏は震えながら立ち上がり

「私たちの能力……大幅に強化されてる!」

 最後に目覚めたのは明智冬音だった。彼女は呆然とあたりを見回し、その目は恐怖に満ちていた。

「どうして……どうして私だけ何も感じないの?」

 冬音の声は涙声だった。

「私、やっぱり何の能力もないんだわ!」

 秋子の胸に戦慄が走る。前世の記憶が潮のように押し寄せてきた――前世で彼女たち四姉妹は、陰陽術の大家の下で学ぶ四人の弟子であり、善悪を識り、寿命を断ち、生死を定めるという、人知を超えた秘術に通じていた。しかし、幕府軍の首領である源義氏は、その奇門の術士たちが世を惑わし、民を愚弄する存在だと断じ、師の一門を皆殺しにするよう命じたのだ。

 師は道場の炎の中で命を落とし、彼女たち四姉妹は雪の中で復讐を誓った……。

 そして、果てしない闇へと堕ちた。

 まさか私たち……本当に死んだの? ここは……異世界?

「どうやら神選召喚魔法は成功したようじゃな」

 低く、威厳のある声が響いた。ローブをまとった白髪の老人が、影の中からゆっくりと姿を現す。手には水晶の杖を持ち、その眼光は鷹のように鋭い。

「グラン帝国魔法学園へようこそ、異界より来たりし四人の予言者たちよ」

 院長の言葉一つ一つが、まるで目に見えない威圧感を帯びており、四姉妹は思わず身を固くした。

「あなたは誰? ここはどこなの?」

 秋子は無理やり冷静さを保ち、警戒の色を浮かべる。

「わしは帝国魔法学園の院長、エドウィン・メロディアス」

 老人はわずかに頷いた。

「お主たちは『天命召喚魔法』によって選ばれた予言者。真の君主を選び出すという、神聖な使命を背負っておる」

 君主を選ぶ? どういうこと?

 春香は眉をひそめた。

「私たちは師の仇を討ちたいだけ。あなたたちの君主選びになんて興味ないわ」

「ほう?」

 院長の目に底知れぬ光が宿った。

「もし、この使命を拒めば、元の世界には二度と戻れぬと言ったら、それでも同じことが言えるかな?」

 四姉妹の顔色が変わった。

「脅しているの?」

 秋子は冷たい声で問い詰めた。

「いや、事実を述べているまで」

 院長は淡々と言った。

「天命召喚魔法は一度発動すれば、覆すことはできぬ。お主たちに残された選択肢は二つ。使命を果たして帰還の機会を得るか、永遠にこの世界に留まるかじゃ」

 冬音は怯えながら秋子の袖を掴んだ。

「秋子姉さん、どうしよう?」

 秋子は深く息を吸い、院長の目をまっすぐに見据えた。

「話してみて。その使命とやらが、一体何なのかを」

 院長が杖を振るうと、空中に四人の人影が浮かび上がった。

「先代の独裁者は打倒されたが、国に主無き日は許されぬ。グラン帝国は今、史上例を見ない皇位継承の危機に瀕しておる。帝王の資質を備えた四人の候補者は、光明学部の聖子エドモンド、闇学部の魅影王子カール、竜騎学部の炎竜公爵レナード、そして召喚学部の星空賢者セレスじゃ」

「予言者はそれぞれ、一人の候補者を選び、運命の契約を結ばねばならぬ。そして、その者が皇位を争うのを助けるのじゃ。最終的に勝利した者が新たな皇帝となり、敗者は……」

 院長は言葉を区切った。

「死を迎えることとなろう」

 なんですって!?

「もし拒んだら?」

 秋子は歯を食いしばって尋ねた。

「運命の歯車はすでに回り始めた。誰であろうと逃れることはできん」

 院長の声音には何の感情もなかった。

「じゃが……これがお主たちの運命を書き換える、唯一の機会でもある」

 冬音は震える声で言った。

「私、何の能力もないのに、どうしてそんなことに参加できるの?」

 院長は意味ありげに彼女を一瞥した。

「無能力者こそが、最大の変数となり得る。歴史上、最も恐れられた予言者は、まさしく『無能』に見えた者たちじゃった」

 この古狐、一体何をほのめかしているの?

「お主たちの能力を確かめるため、テストを用意した」

 院長が杖を一振りすると、四人は瞬く間に別の部屋へと転移させられた。

 部屋は広々として明るく、中央には巨大な水晶球の置かれた台座があり、周囲を魔法記録用の計器が取り囲んでいる。

「明智春香、お主からじゃ」

 春香が水晶球に向かい、それに触れた途端、部屋中が金色の光に包まれた。

「見える……ここにいる全員の善悪の本質が!」

 春香は驚愕の声を上げた。

「試験官の先生は心根は優しいけど少し打算的。あの記録員は表面上は恭しいけど心の中は嫉妬でいっぱい。それに……」

 彼女の視線が院長に向かい、瞳が急に収縮した。

「院長……あなたの心の奥底には、とてつもない秘密が隠されている!」

 院長は肯定も否定もせず頷いた。

「よろしい。善悪感知の能力は確かに覚醒しておるな。明智千夏、次はお主のテストじゃ」

 千夏が進み出ると、水晶球は銀白色の輝きを放った。

「みんなの寿命が見える!」

 千夏は興奮して言った。

「試験官の先生はあと三十年、記録員はあと十五年、院長は……」

 彼女は突然口をつぐみ、顔が青ざめた。

「どうした?」

 院長が問い詰める。

「わ、私……院長の寿命が見えません。何かに遮られているみたいで」

 やはりこの院長、ただ者ではない!

「明智秋子、お主の番じゃ」

 秋子はゆっくりと水晶球へ歩み寄り、心の中で何事もないようにと祈った。しかし、彼女の手が水晶球に触れた瞬間、部屋中が血のように赤い死の光に包まれた!

 いや——!

 恐ろしい光景が、津波のように彼女の脳裏へ流れ込んでくる。

 華麗な宮殿の中、金色の宮廷衣装をまとった明智冬音が、宝石をちりばめた短剣を握りしめ、その目には絶望と無念が満ちている。彼女は秋子の前に跪き、頬を涙が伝う。

「秋子姉さん……どうしてこんなことに?」

 秋子の手にもまた長剣が握られ、その切っ先は冬音の心臓に向けられていた。彼女の眼差しは氷のように冷たく、かつての優しさの欠片もない。

「ごめんね、冬音……これが運命なの」

 長剣は容赦なく冬音の胸を貫いた。鮮血が飛び散り、冬音の瞳から光が次第に消えていく。手にしていた短剣が、力なく床に落ちた……。

 私が……冬音をこの手で殺す!?

「明智秋子くん、何が見えたかね?」

 試験官が心配そうに尋ねた。

 秋子は必死に平静を装ったが、額にはすでに冷や汗が流れていた。

「見えました……終わりを。たくさんの人の、終わりを」

「秋子姉さん、顔色がすごく悪いよ。何が見えたの?」

 冬音が心配して歩み寄る。

 目の前の純真無垢な顔を見て、秋子の胸に万感が交錯する。彼女は無理に笑顔を作った。

「なんでもない……少し慣れないだけ」

 院長の目に、深い光が宿った。死の予視……この力は、予想以上じゃな。

 最後は冬音のテストだった。彼女はおずおずと水晶球に近づいたが、いくら触れても水晶球はうんともすんとも言わない。

「やっぱり……異世界に来ても、私には何の能力もないんだわ」

 冬音はがっくりと頭を垂れた。

「テストは終了じゃ」

 院長が宣言した。

「三日後に正式な運命の契約式を執り行う。その時、お主たちは四人の皇位継承候補者と相まみえ、それぞれの選択をすることになる」

 その夜、四姉妹は学園の貴賓区で休むことになった。遠くには四大学部の校舎群が、それぞれ異なる色の光を放っている。秋子は一人、テラスに立ち、物思いに耽っていた。

 あの恐ろしい予言が、悪夢のように脳裏から離れない。

「秋子姉さん、私、怖いよ」

 冬音がそっと隣にやってきた。

「私、何の能力もないのに、どうやって選べばいいの?」

 秋子は振り返り、見慣れた妹の顔を見て、複雑な感情が込み上げてきた。

 もし予言が本当なら……目の前のこの無垢な冬音は、将来どんな姿に変わってしまうのだろう? そして、何が私に、彼女を殺させようとするのだろうか?

「心配しないで。私が守るよ」

 秋子は冬音の髪を優しく撫でた。

 必ずこの運命を変えてみせる。この悲劇を、決して起こさせはしない。

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——

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ベラは嘲るように微笑んだ。「その子の父親は、あなたじゃないわ」