第3章 姉妹の裏切り
三日後の早朝、神殿の鐘の音が学園中に響き渡った。
明智秋子は神殿の入り口に立ち、明智冬音が固くその手を握りしめ、震える声で言った。
「秋子お姉ちゃん、すごく緊張する……」
「大丈夫よ、私がいるから」
秋子は冬音の髪を優しく撫でたが、心中の不安はますます強くなるばかりだった。
自分が冬音を手にかける光景が、今もまざまざと目に焼き付いている。この恐ろしい未来を変えるため、彼女は冬音に最も安全な選択肢を与えなければならなかった。
「預言者の皆様、どうぞ神殿へ」
金色の衣を纏った神官が、恭しく彼女たちを神殿の中へと導いた。
神殿内部は、さらに圧巻だった。巨大な運命の魔法陣が中央エリアのすべてを占め、金銀二色の光が潮のように流転している。四人の学部長はすでにそれぞれの位置につき、魔法陣の四方に立っていた。
エドモンドは純白の聖袍をその身に纏い、まるで天から降りてきた仙人のように聖らかだ。セレスは星空色の長袍を身に着け、叡智に満ちた深遠さを漂わせている。カールは黒の礼服姿で、神秘的で計り知れない。レナードは燃えるような真紅のマントを羽織り、勇ましく非凡な雰囲気を放っていた。
秋子の視線は、思わずレナードの上で留まった。太陽のようなその笑顔に、彼女の心臓は高鳴る。しかし、すぐに無理やり視線を逸らした——今は色恋にうつつを抜かしている場合ではない。
「神に選ばれし預言者の諸君」
院長のエルヴィンがゆっくりと中央へ歩み寄る。
「本日、神聖なる運命の契約の儀を執り行う。これは単なる協力の始まりではない。生死を共にする運命の結束なのだ」
彼が杖を振ると、魔法陣は一層まばゆい光を放った。
「ルールは単純だ——各預言者は年齢順に選択し、一度契約を結べば変更はできない」
「では、四人の候補者に勧誘の宣言を述べてもらおう」
院長が告げた。
エドモンドがまず一歩前に進み、穏やかに微笑む。
「私は光と正義の力を信じています。この理念に賛同してくださる預言者と共に戦いたい」
彼の言葉が終わるや否や、神殿全体が温かな金色の光に包まれた。
セレスは眼鏡を押し上げ、優雅に言った。
「知識こそが、勝利へと至る唯一の道です」
銀青色の星の光がきらめき、神秘的で魅惑的だった。
カールの眼差しは深淵のように深く、低く言った。
「真の強者は、決して闇を恐れぬ。我が命に代えても、契約者を守り抜こう」
紫色の影の光がうねり、身震いするほどの威圧感を帯びていた。
最後はレナードだった。彼の太陽のような笑顔は、ひときわ輝いている。
「俺を本当に理解し、信頼してくれる仲間を見つけたい。一緒にもっと良い未来を創ろうぜ!」
燃え盛るような真紅の竜の息吹が天に昇り、血が沸き立つような熱気が満ちた。
秋子は四人を注意深く観察する。カールは見たこそ危険だが、その身からは強烈な庇護欲が感じられる。この気質は……冬音にぴったりだ。
「これより、選択の儀を始める。明智春香、前へ」
院長が宣言した。
春香は深く息を吸い込み、善悪感知の能力を起動する。金色の光がその瞳に瞬き、しばしの後、彼女は迷いなくエドモンドのもとへと歩み寄った。
「私は光明学部のエドモンド殿下を選びます。殿下の心は光のように清らかで、私が今まで見た中で最も善良な方です」
エドモンドは穏やかに彼女の手を取った。
「共に光と正義を守りましょう」
二人の手が握り合わされた瞬間、金色の契約の光が天を突き、社内に聖なる鐘の音が響いた。
「明智千夏、選択せよ」
千夏は理性的に分析した後、躊躇なくセレスへと向かった。
「私は召喚学部のセレス様を選びます。その智慧と学識は比類なく、何より、私には彼の命数を窺い知ることができません」
セレスは微笑んで頷いた。
「知識が我らを勝利へと導くでしょう」
残るはカールとレナードだけとなった。
秋子の心中の確信は、さらに強くなる——カールこそが、冬音にふさわしい人物だ!
レナードは情熱的で奔放だが、あまりに衝動的すぎる。一方カールは闇魔法を修めてはいるものの、庇護欲が強い。
「明智秋子、選択せよ」
院長の声が響いた。
秋子がその一歩を踏み出そうとすると、冬音が途方に暮れた様子で彼女の手を掴み、その瞳には依存の色が満ちていた。
「秋子お姉ちゃん、私、最終的に誰と契約を結ぶの?」
秋子は深く息を吸い、真摯に言った。
「冬音のために、カール殿下を残してあげる」
なにっ?!
冬音だけでなく、その場にいた他の者たちも驚愕の表情を浮かべた。
「でも……闇学部って、なんだか危なそうだよ」
冬音は訝しげに言う。
「秋子お姉ちゃんこそ、闇学部に合ってるのに」
秋子は根気強く説明した。
「冬音、私を信じて。カール殿下は闇魔法を研究しているけれど、きっとあなたを守ってくれる」
彼女の答えは誠実そのものだった。
「それに闇学部は比較的独立していて、複雑な政治闘争に巻き込まれにくい。あなたにとって、それが一番安全な選択なの」
しかし、冬音の表情はますます疑わしげになり、その瞳には不信感が宿っていた。
「もうやめて!」
冬音は突如として爆発した。
「あなたの死の予視では、一体何が見えたの? 絶対に私を騙してる!」
秋子の心臓がどきりと跳ねた。
「冬音、そんなことは……」
「何か恐ろしい未来を見たから、わざと私を一番危険な人に押し付けようとしてるんでしょ!」
冬音は怒りを込めて非難する。
「私に死ねって言うのね。そうすれば秋子はレナード様を選べるものね?!」
その言葉は青天の霹靂のようで、秋子の顔色は瞬く間に蒼白になった。
「冬音、何を言ってるの? 私はあなたを守るために……」
「私を守るため?」
冬音の瞳には涙が浮かんでいたが、それ以上に怒りと無念さが満ちていた。
「小さい頃からずっと、私は姉妹の中で何の取り柄もない子だった。お姉ちゃんたちばっかり注目されて! あの日だってレナード様はあなたしか見てなかった! 今度は私を騙して一番危険な人を選ばせようとするの?」
「あなたなんて信じない!」
冬音は踵を返しレナードのもとへ駆け寄り、大声で宣言した。
「私は竜騎学部のレナード様を選びます! あの方が一番公明正大で、一番信頼できそうですもの!」
「冬音!」
秋子は手を伸ばして止めようとしたが、すでに手遅れだった。
二人が触れ合った瞬間、契約は成立し、燃えるような真紅の契約の光が二人を包んだ。
「契約は成立した。明智秋子、君の候補者のもとへ」
院長の声が、まるで審判のように響く。
秋子は目の前にただ一人残されたカールを見つめ、内心、極限まで苦しんでいた。冬音を守り、運命を捻じ曲げようとしたのに、欺瞞だと誤解されてしまった。
運命は、やはり定められた方向へ進むしかないというのか……。
「そういうことなら……」
秋子は涙をぐっとこらえ、ゆっくりとカールのもとへ歩み寄った。
「私は闇学部のカール殿下を選びます」
カールの深い紫色の瞳が彼女をじっと見つめ、静かに言った。
「君の心の痛みは感じ取れる。すべての善意が、理解されるわけではない」
神殿全体が深い紫色の影の光に包まれた。その光は想像していたよりも温かく、まるで夜の闇の中の守護者のようだった。
「ありがとうございます……カール殿下」
秋子は必死に涙を堪えた。
その時、レナードが歩み寄ってきた。その瞳には申し訳なさが満ちている。
「すまない、秋子……俺にはわかる。君は本当は……」
「もういいんです」
秋子は力なく笑って首を振った。
「これも運命の采配なのでしょう」
遠くで冬音が鋭い眼差しを向け、意地っ張りに言った。
「秋子お姉ちゃん、私は自分の選択を後悔しないから」
「儀式は完了した!」
院長が宣言した。
「これより、四組の契約者は生死を共にし、来るべき皇位争奪戦に共に挑むこととなる!」











