第5章 秘密の任務
深夜の学院長室。
八つの影が古めかしい円卓を囲み、テーブルに広げられた帝国地図は、赤い魔法陣によっておぞましいほどに埋め尽くされていた。
「諸君、今宵集まってもらったのは、ある極秘任務のためだ」
幽暗の中、学院長エドウィンの声がことさらに重く響く。
「帝国辺境にて、三百年前に建造された古代遺跡が発見された」
明智秋子は緊張に手を固く握りしめた。学院長による突然の緊急招集が、胸中の不安をますます掻き立てる。
「それが皇位争奪と何の関係があるのですか」
カールが冷静に問いかけた。
学院長が杖を振ると、空中にぼんやりとした魔法の映像が浮かび上がった——蔦に絡まれた古い石の神殿が、不気味な青い光を放っている。
「この遺跡は、失踪したエリア皇女に関わるものだ。伝説によれば、彼女は純粋な皇室の血統を持ち、真の帝王候補者を見分けることができたという。だが、無限に膨れ上がる野心と独裁統治の末、その権力は覆された」
レナードは眉をひそめる。
「三百年前に死んだ皇女が、今さら現在の皇位争奪に影響を及ぼすと?」
「もし君たちがそれぞれの皇室血統の純粋さを証明できれば、この争いには決着がつく」
エドウィンは真剣な面持ちで言った。
秋子の心に警鐘が鳴り響く。
——嫌な予感がする……この任務は決して単純なものではない。
学院長の視線が八人全員をなぞる。
「血統の認定は、四人の候補者にとって皇位争奪の要だ! ゆえに、君たちには遺跡の奥深くへ進み、エリア皇女が遺した伝承の秘密を探し出してもらいたい」
「面白い……」
カールの口元が危険な笑みを描く。
「亡霊の秘密で、生きている者たちの争いに決着をつけるとは。実に残酷だな!」
明智冬音がおずおずとレナードの袖を掴んだ。
「なんだか危なそう……私たち、本当に行くんですか?」
レナードは優しく彼女の手に己の手を重ねて叩いた。
「心配するな。俺が守るよ」
しかし、彼の視線は無意識に秋子の方へと向けられていた。その視線に気づいた秋子の胸中は、複雑な思いで満たされる。
「明日の黎明に出発する」
学院長は最後に宣言した。
「心せよ、今回の任務は皇位争奪の構図そのものを左右する。くれぐれも慎重にな!」
——
翌日、陰鬱な地下遺跡の入口。
古びた石の門は分厚い蔦に覆われ、空気中には三百年もの間蓄積された陰冷な気が満ちていた。
「みんな、はぐれないように」
セレスは眼鏡を押し上げ、手に持った杖が放つ微かな光を頼りに言った。
「こういう遺跡には、往々にして罠が張り巡らされているものだ」
八人の部隊はゆっくりと地下の石廊を進んでいく。壁には光を放つルーンがびっしりと刻まれていた。
「このルーン……まるで感情を伝えてくるみたい」
明智春香は壁にそっと触れる。善悪感知能力を持つ彼女には、残留した感情の揺らぎが微かに感じ取れた。
明智千夏は眉根を寄せる。
「ここで大勢の人が死んでる……それも、すごく苦しんで」
まさにその時、秋子の死の予知が突如として発動した!
血のように赤い光景が閃く——巨大な石像の守護獣が復活し、その鋭い爪が眼前の者たち一人一人を引き裂いていく!
「危ない! 全員下がって!」
秋子が鋭く警告した。
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、前方の石像が突如として深紅の瞳を見開き、耳をつんざくような咆哮を上げた!
ゴゴゴゴゴ——
三体の巨大な守護獣が同時に復活し、通路を塞いだ。身長は三メートルはあり、全身を鋼鉄のような石の鎧で覆っている。
「ちっ! 古代の守護獣か!」
セレスの顔色が変わる。
「伝説の石像守護獣……その力は竜族にも匹敵すると言われている!」
最前方の守護獣が巨大な爪を振り上げ、真っ直ぐに秋子へと襲いかかった!
秋子は攻撃の軌道を予知し、咄嗟に右へと転がって回避する。
だが、別の守護獣がすでに側面から回り込み、その毒々しい爪が致命的な緑の光をきらめかせていた!
秋子の死の予知には、自分がその毒爪に心臓を貫かれる光景がはっきりと見えた!
その絶体絶命の刹那、レナードが天神の如く駆けつけた!
「何者にも君を傷つけさせない!」
金色の竜の炎が彼の身体から迸り、掲げた竜鱗の盾が秋子の前に立ちはだかる。守護獣の毒爪が竜鱗の盾に激しく打ちつけられ、甲高い摩擦音を立てた。
レナードは歯を食いしばり、数メートルも後退させられ、口の端から血が滲む。それでもなお、彼は断固として秋子の前に立ち続けた。
秋子はその広い背中を見つめ、心に衝撃を受けながら、呆然と呟いた。
「ありがとう……」
「この守護獣どもは、何か重要なものを守っているようだ……」
カールは冷静に状況を分析する。
「攻撃パターンには規則性がある。我々を特定のエリアから遠ざけようとしているな」
「みんな、気をつけて……」
冬音は部隊の最後尾に隠れ、声を震わせた。
エドモンドが聖剣を振るうと、金色の光が潮のように守護獣へと斬りかかった。
激しい戦闘の末、三体の守護獣はようやく撃退され、石廊の影の中へと消えていった。
「どうやら、進むべき道は合っていたようだな」
セレスは額の汗を拭う。
「守護獣が強いということは、それだけ我々が中心部に近づいている証拠だ」
遺跡の内部へと深く進み、部隊は分散して探索を始めた。
秋子は一人、古代ルーンがより密集している薄暗い脇道へと向かう。
廊下の突き当たりで、彼女は隠された密室を発見した。
石の扉を押し開けた瞬間、秋子は眼前の光景に息を呑んだ——
密室の中央には、小さく精巧な水晶球が置かれ、夢幻のような輝きを放っている。水晶球の周りには無数の光点が漂い、まるで満天の星々のように美しかった。
秋子はゆっくりと水晶球に歩み寄り、その指が水晶の表面に触れた瞬間、強烈な魔法エネルギーが全身を駆け巡った!
秋子の死の予知能力は古代の魔法によって大幅に増強され、眼前に三百年前の真実の光景が浮かび上がる——
華麗な皇宮の中、美しい金髪の女性が寝台に横たわっている。彼女こそが、伝説の独裁者——エリア皇女。
この時の彼女は深手を負い、命は風前の灯火だった。
『転生の術……これが最後の機会……』
エリア皇女は最後の力を振り絞り、禁忌の転生魔法を発動させた。
『我は再びこの地に舞い戻り……我がものすべてを奪い返す……』
映像がぼやけ、次いで一人の赤ん坊が現れた——その顔は、なんと冬音と瓜二つだった!
秋子は衝撃のあまり、呼吸すらままならない。
「ありえない……冬音は……あの独裁者の転生体だというの!?」
水晶球からエリア皇女の残魂の囁きが聞こえてくる。
『転生の術は成り……我は、いずれ覚醒する……この帝国は、元より我のもの……』
秋子は、巨大な衝撃と恐怖に囚われた。
——どうりで、いつも冬音を殺す予知を見ていたわけだ……彼女は私の妹などではなく、三百年前の野心家だったなんて!
「この秘密……誰かに話すべき? もし冬音が記憶を取り戻したら……」
秋子は苦悶に身をよじる。
「だめ、この秘密は守り通さなければ。少なくとも、今は誰にも知られてはならない!」
彼女は無理やり自分を密室から離れさせたが、心の恐怖は影のように付きまとった。
時を同じくして、遺跡の別の区画。
冬音は、豪華だが埃にまみれた一室に迷い込んでいた——そこはかつてのエリア皇女の私室だった。
月光が石の隙間からドレッサーの上に降り注ぎ、すべてが三百年前のままの姿を保っている。
「きれいな部屋……」
冬音は眼前の豪奢さに心を奪われた。
彼女の視線は、ドレッサーの上に置かれた一つの宝石箱に引きつけられる。そっと箱を開けると、精巧な三日月形のネックレスが静かに横たわり、微かな銀の光を放っていた。
「きれいなネックレス……どうして、こんなに見覚えがあるんだろう」
冬音は何かに憑かれたようにネックレスを手に取った。
「まるで……私のために作られたみたい」
彼女は思わずそのネックレスを首に着けた。
瞬間、強烈な血脈の共鳴がほとばしる!
ネックレスは彼女の体内で眠っていた皇室の血脈と激しく反応し、三百年前の記憶が洪水のように意識へと流れ込んできた——
エリア皇女の声が、彼女の脳内で響き渡る。
『我が転生者よ……汝、ついに戻ったか……この帝国は、元より我のもの……』
憎悪、野心、皇権への渇望……抑圧されていたすべての記憶が、一瞬にして覚醒した!
冬音の眼差しは純真から深く陰鬱なものへと変わり、その佇まいすべてが完全に覆る。
「そうか……思い出した……我は誰で、何を欲しているのかを……」
彼女の声は威厳に満ち、冷酷さを帯びていた。
「我はエリア・グランドラ。この帝国唯一の正統継承者!」
彼女は冷ややかに笑い、その瞳は危険な光にきらめいた。
「秋子姉さん……レナード……貴様らは何の遊戯に興じているつもりだ? 真の遊戯は、今、始まったばかりだというのに……」
冬音——いや、覚醒したエリア皇女は、首の三日月のネックレスを撫でながら、胸中に強烈な野心を湧き上がらせる。
「三百年……我はついに力を取り戻した……今度こそ、誰にも我が玉座を奪うことはできぬ!」
彼女の笑みは、ますます陰鬱さを増していく。
「姉妹たちよ……我をこの世に導いてくれたこと、感謝する。だが今日より、貴様らは我が皇位への道に敷かれる踏み石となるのだ!」
遺跡の深奥で、二つの驚天動地の秘密が同時に暴かれた。
さらに血腥い争奪戦の幕が、今、切って落とされようとしていた!











