第6章

「もしもし」

電話の向こうに響いた自分の声は、我ながら不気味なほどに静かだった。

「どうした」

彼の返事は短く、冷たい。背景では紙をめくる音が聞こえる。

「離婚届のことなんだけど、早く手続きを済ませたいの」

無駄な駆け引きに時間を費やすのはやめ、単刀直入に切り出した。

「こっちは今、仕事のプロジェクトで立て込んでて、時間の調整が難しい」

まるで無関係な取引先をあしらうかのような、他人行儀な口調だった。

思わず鼻で笑う。あまりにも稚拙な言い訳だ。

「義和、区役所の開庁時間は知ってるでしょ。考える時間は二日だけあげる。明後日、あなたがどれだけ忙しくても、区役所に現れさ...

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