第106章

「社長、救急車が来ました! もう離してください!」

小野彰の声は、ほとんど絶叫だった。駆け寄り、真琴のこわばった指をこじ開けようとする。

真琴は、聞こえていないみたいだった。

腕の中の細い身体を、骨が折れるほど強く抱きしめている。絵里奈の血が高級なシャツをぐっしょり濡らし、ぬるく粘ついた感触が肌に張りつく。

――どうして、こんなに血が。

「寝るな……」

真琴は俯き、血に汚れた絵里奈の額へ頬を押し当てた。声は震えて崩れそうなのに、息が詰まるほどの執着だけは消えない。

「絵里奈、よく聞け。死ぬのは許さない」

「死んだら、冬月家を潰す」

「聞こえてるのか!」

脅しだった。

こ...

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