第107章

そのときだった。廊下の奥から、車椅子の車輪が床を擦る音が近づいてくる。

知代は手術を終えてまだ間もないはずなのに、看護師に押されながら廊下の突き当たりに姿を現した。顔色は悪く、目つきだけが妙に冷たい。

冬月正明の嗚咽も、さっきまでのやり取りも――全部、聞こえていたのだろう。

「泣いてどうするの」

知代の声は氷みたいに平坦だった。

「病院で大騒ぎなんて、みっともないわ」

冬月正明が勢いよく顔を上げる。いつもなら優雅で高貴なはずの妻を、今は信じられないものを見る目で見つめた。

「知代……絵里奈が中で救命処置を受けてる! 俺たちが……俺たちが死ぬほど追い詰めて追い出したせいで、事故に...

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