第118章

墓地を渡る風は、湿り気を帯びた冷たさを運んでいた。絵里奈は長居しなかった。

智哉が「送るよ」と申し出てくれたのを、彼女は首を振って断る。冬月家に迷惑をかけるわけにはいかない。ましてや、智哉を災難に巻き込むなんて――。

二人目の賢治なんて、絶対に見たくなかった。

「じゃあね、智哉」

杖に体重を預け、絵里奈は背を向ける。路肩に停まったタクシーへ。

一歩、一歩が重い。それでも、迷いはない。骨に打ち込まれた鋼の感触が擦れて、神経を伝って全身に痛みが走る。けれど彼女は、眉ひとつ動かさなかった。

智哉はその場に立ち尽くし、絵里奈の孤独な背中をぼんやりと見送っていた。

金縁の眼鏡を指で押し上...

ログインして続きを読む