第125章

狩野グループ最上階の社長室。

真琴は、もうどれだけ煙草を燻らせたかわからない。

回転椅子に深く腰を沈め、手には報告書。だが、そこに並ぶ数字は一つも頭に入ってこなかった。

脳裏を占めているのは――あの夜だけだ。

狩野邸の主寝室。大きなベッドの上。

自分は酔ってなどいなかった。意識は冴えていた。

わざと、彼女のいちばん奥まで突き入れた瞬間、耳元に唇を寄せて囁いた。

「佳奈」

苦しめたかった。

壊したかった。

嫉妬で狂わせて、泣き崩れるところが見たかった。

――なのに。

絵里奈という、あの忌々しい女は。

姉の名を聞いた、その一瞬。顔に浮かべたのは、痛みでも屈辱でもなく。

...

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