第126章

二人の距離は、息が触れ合うほど近かった。

絵里奈は怖かった。酒に呑まれた真琴が、また以前みたいに首を絞めて、言葉で踏みにじってくるんじゃないか――そう思うと、身体が勝手に起き上がろうとする。

「動くな」

真琴は絵里奈の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。

安っぽい香水の匂いはしない。ほんのりと、軟膏とボディソープが混ざった、冷たい清潔さだけ。

――絵里奈の匂い。

その馴染んだ匂いが、真琴の荒れていた心を静かに鎮めていく。

本当に酔っているのだ。酔いが憎しみを溶かし、ぐちゃぐちゃの因縁を忘れさせる。いま腕の中にある身体が、本物で、温かいことだけを覚えさせる。

「真琴……」

絵...

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