第32章

理美の傲慢な気配は、真琴がこちらへ歩いてきたのを見た瞬間、みっともないほどの「被害者の涙」に変わった。

賢治の手が緩んだ隙を突き、理美はよろめきながら真琴へ縋りつく。そして頬を赤く腫らした絵里奈を指差し、悪びれもせず叫んだ。

「真琴! 見てよ、この女が連れてきた間男! 私の手の骨、握り潰すところだったのよ! こんな下賤な女、あなたにふさわしいはず――」

ドンッ!

鈍い衝撃音が、喧噪を真っ二つに断ち切った。

真琴は手をポケットから出しもしない。長い脚を無造作に上げ、理美の腹へ容赦なく蹴りを叩き込む。

情けなど、欠片もない一撃。

華奢で艶やかな令嬢の身体が宙を舞い、廊下の飾り棚へ激...

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