第38章

リビングに足を踏み入れた瞬間、絵里奈はふっと錯覚した。

まるで冬月家の本邸へ戻ってきたみたいだった。佳奈お姉ちゃんが、まだ生きていたころへ。

室内には、やわらかく甘い芳香が満ちている。佳奈が生前いちばん好んでいた、梔子の香り。

敷居をまたいだ、その直後だった。

張りつめた静けさを切り裂くように、女の甲高い声が響く。

「何、その格好で来たの?」

欧風のソファに腰かけた冬月知代が、嫌悪を隠そうともせずハンカチで口元を覆う。そうして絵里奈を上から下まで眺め回し、露骨に眉をひそめた。

「そんな姿でうろうろされたら、また冬月家で死人でも出たのかと思われるでしょう。縁起でもない」

父の冬...

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