第60章

西村家のダイニングルーム。

賢治は長いダイニングテーブルの端に座り、皿の上の血の滲む仔牛のステーキを、感覚の死んだ手つきで切り分けていた。

主座には西村健一。赤ワインのグラスを手に、暗い紅の液越しに、弟を静かに値踏みする。

昨夜戻ってきてから、賢治の様子がどこかおかしい。

あの、ぬるくて、いつもどこか哀れみを湛えていた目が消えた。代わりに宿ったのは、ぞっとするほどの平静だった。

「間宮教授、具合がよくないらしいな」

健一はグラスを軽く揺らし、雑談めいた口調で言う。

「中央病院だそうだ」

賢治の手は止まらない。ナイフが肉を裂き、赤い汁がじわりと滲む。

「よくない」

一切れを...

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