第62章

絵里奈は歯を食いしばり、顔から血の気がすっかり失せていた。

やがて、雨に濡れたオーダーメイドの革靴が、目の前まで来る。

彼女はそこで止まり、両手を泥水に突いたまま、全身を小刻みに震わせた。

それでも――どうしても顔を上げようとしない。

真琴が瑠璃という殺人犯を庇うことを、責めているのかもしれない。

姉の死が、どうしても許せないのかもしれない。

理由なんて、どうでもいい。

大事なのは、今は生き延びること。

そして――家族を壊したあの屑を、殺すこと。

真琴は足元の「泥の塊」を傲慢に見下ろした。

これが、かつて誇り高かった冬月絵里奈。

デザイン展で眩いほどに輝き、滅多に現れな...

ログインして続きを読む