第70章

「ボス!」

ドアの向こうから、高坂康平の切羽詰まった叫びが飛び込んできた。

「例の狂人が来ました! もう路地裏に突っ込んでます!」

淳史はゆっくりと身を起こし、ベッドの上の絵里奈を見下ろした。満足げに口角がつり上がる。

「行くぞ」

服の乱れを整え、最後にもう一度だけ、目を閉じたまま恐怖で震えている絵里奈へ視線を落とす。

「幸運を祈るよ、狩野夫人」

淳史は声を立てて笑い、部屋を出た。手下を引き連れ、裏口から一気に撤退する。複雑に絡み合うスラム街の路地裏へ溶けるように消えた。

室内に、死のような静けさが戻る。

残されたのは絵里奈ひとり。衣服は乱れ、汚れたベッドに投げ出されている...

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