第72章

深夜の港。潮の匂いを孕んだ海風が、肌にまとわりつく。

死角に、ナンバープレートのない黒いセダンが停まっていた。窓がすっと下がり、瑠璃の顔が覗く。整った造形――なのに、どこか歪んでいる。

「……あんた、頭おかしいの? ここで会うなんて、よく言えたわね」

瑠璃は声を押し殺した。苛立ちが、言葉の端々から滲む。

何度もルームミラーへ視線を投げる。真琴の手の者に見つかるのが怖くて仕方ない、といった様子だ。

闇の中から男が現れた。

植田淳史。口に煙草を咥え、左目だけが獣みたいにぎらついている。その陰湿な光が、暗がりでいっそう醜悪に浮いた。

「何をビビってんだよ。真琴は今ごろ、俺を探して街中...

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