第85章

バン!

病室のドアが、叩きつけるように閉まった。

背の高い影はそのまま立ち去っていく。けれど――さっきまでのように、無理やり署名させる話は、もう口にしなかった。

床に投げ捨てられた離婚協議書は、そのまま。出ていく間際に一度踏みつけられ、紙の端に灰色の埃がべったりと付いている。

本気なら、彼は絵里奈の手首を掴んで、指印を押させることだってできたはずだ。

従わせる手段なら、いくらでも持っていたはずだ。

それでも、しなかった。

「我慢の限界」なんて――結局、自分に言い訳するための、いちばんみっともない口実だったのだ。

けれど絵里奈は知らない。

そして真琴自身も、まだ気づいていない...

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