第86章

三十分後。車は人目のない私設のヘリポート脇で停まった。

きっちりしたトレンチに身を包み、短髪をきりりとまとめた女が、すでに待っている。

「連れてきたの?」

清水恵莉は、賢治の腕の中で意識を失っている絵里奈を見て眉を寄せた。「うそ……どうしてこんなに……」

「説明してる時間がない」

賢治は絵り奈を慎重に機内後部のソファへ横たえ、毛布をかけた。血の気を失った頬に指先を滑らせ、ほんの一秒だけ名残を置く。

「恵莉、頼む。絵里奈をS市へ。いちばんいい療養施設は手配してある。何があっても、N市には戻すな」

「あなたは?」

恵莉が賢治を見上げる。「一緒に行かないの?」

「俺は行けない」

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