第87章

N市の街はまだ眠っている。

その未明の幹線道路を、黒いSUVが数台、狂ったような速度で駆け抜けていた。

「社長、ロックしました! 西村賢治の車、12埠頭へ向かってます!」

小野彰は部下から届いた位置情報を睨み、額に滲む汗を拭うこともできない。「水路でN市を抜けるつもりです!」

「逃げる気かよ」

後部座席の真琴は、車内に備え付けられていた拳銃を握り潰す勢いで掴んでいた。

脳裏に焼き付いているのは、賢治が絵里奈を抱きかかえる光景。

――どこへ行く。

――駆け落ちか。俺のいない場所で、幸せに暮らすつもりか。

胸の奥で、これまで知らなかった酸っぱさと暴力が爆ぜた。

絵里奈が、別の...

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