第90章

絵里奈は全身血まみれの賢治を抱きしめたまま、びくりと身体を強張らせた。

聞き間違えるはずがない足音だった。重く、傲慢で、あの男特有の圧が混じっている。

反射的に顔を上げる。月明かりを背に、真琴の大きな影が目の前に立っていた。

冷え切った表情で、彼は絵里奈を見下ろす。血に濡れた手を、賢治を抱えて泣き崩れる彼女を――その絶望ごと。

深い瞳の奥で、抑えきれない嫉妬の火が燃え上がっていた。

「どうした、泣くのやめたのか」

真琴は彼女の前で足を止め、声の温度を一切落としたまま言う。

「続けろよ。見せてみろ。狩野夫人が、男のためにどれだけ悲しめるのか」

絵里奈は、その侮辱的な呼び方を否定...

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