第92章

狩野邸の夜は、静かすぎて――かえって怖い。

絵里奈は寝室のソファに座ったまま、窓の外の闇を見つめていた。空はもう、底まで黒い。

さっきまで西村家にいた。

固く閉ざされた門扉と、健一の背中。あれが胸の奥に沈んで、息を吸うだけで痛む。

賢治に会えなかった。

それどころか、あの家に余計な火種を持ち込んだだけだ。

カチャ。

鍵の回る音が、死んだような部屋に刺さる。

真琴が入ってきた。

上層部の会議を終えたばかりなのだろう。煙草の匂いとアルコールが濃くまとわりつき、ネクタイは乱暴に緩められて首にぶら下がっている。普段は見せない苛立ちが、皮膚の下で暴れていた。

彼は灯りをつけない。廊...

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