第95章

会社へ戻ってから、絵里奈はデスクに座ったまま、三時間も黙り込んでいた。

足元のゴミ箱は、丸めた紙くずでいっぱいだ。入りきらなかったものが床に落ち、通りすがりの同僚に蹴られて隅へ転がっていく。

絵里奈はそれにも気づかない。握りしめた筆先だけが水彩紙の上を走り、残るのは——息のない黒い線の塊ばかり。

また、賢治のことを思い出してしまう。

陽の下に立つ彼が、知らない人を見るみたいな目でこちらを見て、「君のこと、知らない」と言ったときの顔。

「……っ、ス——」

力を入れすぎた筆先が紙を裂き、耳障りな音がした。

絵里奈の指がびくりと震え、筆がするりと抜け落ちる。ころころと転がって、机の端...

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