第10章 彼の誘惑

正直なところ、伊原綾音の頭の中はかなり混乱していた。北野隆也には契約を反故にされ、その対処もまだ思いつかないうちに、今度は澄川琉生にまで圧をかけられている。

こんな瀬戸際では、先に澄川琉生を片づけなければ、北野隆也にまで手が回らない。

そのうえ、澄川琉生のほうから契約を打ち切ってくれれば、自分が放った啖呵も形になる。見せしめとしても十分だろう。

そうなれば、今後の北野隆也も少しは勝手をしづらくなるはずだ。

澄川琉生は伏し目がちに彼女を冷ややかに見下ろし、薄い唇をわずかに動かした。

「俺にまで楯突いて契約を取りにきたくせに、今さら諦めるのか。それとも、また何か企んでる?」

伊原綾音...

ログインして続きを読む