第102章 平沢征哉

伊原綾音は一瞬きょとんとしたが、次の瞬間には状況を飲み込み、スマホを握る指にぎゅっと力を込めて、弾んだ声で応じた。

「平沢さん、ご無沙汰しております」

「綾音」平沢征哉の声は穏やかで柔らかい。どこか父親を思わせる、あの落ち着いた響き。

伊原南に鍛えられた人なのだろう。仕事の進め方も言葉の選び方も、父の影が差している。そう思うと綾音のほうも自然と距離が縮まり、口調まで明るくなる。

「平沢さん、ちょうどこの二、三日でご挨拶のお電話をしようと思ってたんです。まさか先に平沢さんからいただけるなんて」

「昨日、入札の会場で君を見かけたんだが、人が多くてな。ろくに話せなかった。怒ってないか?」...

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