第147章 彼女は退き彼は進む

澄川琉生の顔色が、みるみる沈んだ。

「……なんで急に、天京区に住みたくないんだ」

伊原綾音は唇の端をわずかに上げ、腰に回されていた手をそっと外すと、視線を落としたまま淡々と言った。

「私、天京区に住むって一度も言ってない……」

澄川琉生の瞳が、さらに暗さを増す。

「澄川奏斗が、お前のために寝る部屋まで用意してる。会えなかったら、あいつ……」

綾音は薄い目で彼を見た。

「出張だって、電話で説明する」

理由まで用意している。最初から決めていたのだと分かる。琉生は彼女の手を握り、感情の読めない声で問う。

「……話し合いの余地はないってことか」

綾音が、ぷっと吹き出した。

「私...

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