第153章 どこへ行っても彼に出くわす

十時。伊原綾音が博物館へ足を踏み入れると、入口で待っていた福田黎がすっと寄ってきた。

「来たな」

福田黎は相変わらず普段着のまま。けれど不思議と、今日の展覧会の空気に馴染んでいる。

綾音は笑って尋ねた。

「待った?」

「俺も今着いたとこ」

合流した二人は並んで展示室へ入った。すでに来場者はそれなりにいるのに、皆が静かに鑑賞していて、会場全体がしんと落ち着いている。

綾音は入った瞬間から目を走らせた。どの作品も、伊絵らしい。大胆で、熱くて、生命の盛りをそのまま叩きつけたような色と筆致。

――けれど。

いちばん奥の一枚の前で、彼女の足が止まった。そこだけ、空気が違う。

そこに...

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