第159章 俺は犬、君の犬

伊原綾音は名前を呼び終えた瞬間、はっと我に返った。慌てて口元を押さえ、上で好き勝手している男を睨みつける。もう片方の手で通話を切ろうとした、その時――男が先にスマホを奪い取った。

綾音は目を見開いたまま首を横に振る。やめて、余計なことしないで。そう訴える仕草。

「綾音、どうした?」向こうの福田黎が追及してくる。

澄川琉生は口角をいやらしく吊り上げ、受話口を手で覆ったまま綾音に囁いた。

「答えろ」

伊原綾音だって、彼が何を気にしているかくらい分かる。この状況で逆らう勇気もない。軽く咳払いを二度してから、スマホの向こうへ言った。

「い、いま……飼ってる犬にぶつかられて……」

言い終...

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